忍者ブログ
[185]  [184]  [183]  [182]  [181]  [180
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

11/22いい夫婦の日!という訳でひさしぶりにレイブレの小話をちょろりん☆
以下題名からどうぞ♥

うとうとと、まどろみがなめる午後は甘い――。

さて、レインズワースの庭では今年もちいさなシロツメクサたちがぽつりぽつりと、そこら中でまばらにさけていた。
彼女らが開くときは決まってしゃくり、と春の溢れる音がするものだ。
しかしこの音をこの屋敷に住まうどれだけの人が聴いているのだろうかと、ブレイクは瞼を伏せる。
今、暦は秋だった。それも冬に懐かれているような寒さの頃合だ。
それがアヴィスが狂い始めてからというもの、季節というものがすっかり失せてしまった。
しかし生き物ひとつひとつの中ではゼンマイ式時計が、かちりかちりと規則正しく動き続け内に眠る季節に明かりを灯す。それは個体の中での季節であって、狂ってしまった暦など関係なしにそれぞれの法に則り一年を刻んでいるのだ。
そういうわけで、ここでは季節はずれの花が一年を通して代わる代わるに咲いていた。
彼の針の音は、片方の光を喪って尚更よく感じるようになった。
その音を聞くたびに、あぁ今年も生きている、とついつい感傷に浸ってしまう。
周りに人の気配はない。
ブレイクはそっと庭に降りると音のするあたりをくるりと回ってみた。
手袋をしないままの指が冷えたけれど、そんなことは気にならないほどに何故だか心が軽かった。
それは恐らく彼らの囁く声があまりに細く優しかったからかもしれない。
ひとつ摘んでしまおうかと伸ばした指先にとんと別の指が当たる。
驚いて顔を上げると「あ、わっ」という少し間抜けた声がほんの僅かに上の方から落ちてきた。
「レイムさん」
驚いたなぁとにっこり笑ってみせると、レイムがむすりと眉間に皺を寄せたのがわかった。
見なくともわかる、彼ときたら何年経ってもなんに対する反応も対して変わらないのだから。
目の前の顔を想像してケタケタと笑うとぎゅっと手を握られた。
「冷えている」
そう言った彼の声色の方が随分と寒そうに思えた。
「君も冷えている」
そう言ってその手の上に更に片手を添えるとその指の付け根になにか柔らかな感触がした。
なにごとかしらとうすらと眼を開け淡い光に揺れる色を眺めて、あぁ、とすぐに理解する。
理解はしたものの随分とまぁ生娘のようなことを、とついつい笑ってしまった。
彼の指が自分の指に触れるたびにその都度温かな心持ちがした。
これがなんなのかブレイクにはわからなかったが、その感覚はひどく懐かしかった。
もしかすると、昔にしあわせと呼んだものかもしれない。
「レイムさん、これなんですカ~?」
準備が整ったらしいタイミングで指を広げてわざとらしく訊くと、少し決まりが悪そうな咳払いに混じって眼鏡を拭く音がした。あぁ離れてしまった、と仕方がないのでその指をとんと自分の唇に宛てがってみる。
そこはもう温かくはなかったが、ふわりと舞う若草の香りが胸をやんわりとくすぐった。
「あーそれはその、まじないだ。シャロン様に昔教えていただいた」
「お嬢様に?」
ボソボソと、それでも律儀に答える彼に聞き返すと少し柔らかな声色で続く言葉が紡がれる。
「あぁ、大切なものに結ぶものだと、ぁ」
そこまで言ってからレイムはしまったという風に慌てふためきだすと、なんでもない!そう言ってつかつかと屋敷の方へ歩き出す。きょとんとその後ろ姿を見つめていたブレイクは、しかしすぐにぷくくと笑いを堪えつつその後ろを追うのだった。

大切な名前を呼びながら、何度も、何度も。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
プロフィール
HN:
甘夏
メールフォームは新居のaboutに移動しました^^
カウンターも新居のindexに移しました^^
書庫一覧もmainの方に移しました。
最新コメント
[06/27 甘夏]
[06/22 ななみ]
[10/25 甘夏]
[10/23 peche]
[10/18 甘夏]
バーコード
ブログ内検索
最古記事
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
忍者ブログ [PR]